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~さわやかに香る風~

~さわやかに香る風~

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   悪の元凶、現る!?

        1

 ニュッ、という変な感覚。
 一瞬、恐怖と共にそれを感じ、とんでもないことに巻き込まれたと思ったのに、ふと我に返った時、そこにはいつもと変わらない風景があった。
 巧は自分の部屋にいた。
 自分の手や体を目で確かめる。。
 さっき、確かに自分はあの手鏡の中に…だったはずだったが、自分が変わりないことにほっとした。
 しかし、その気持ちやいつもと変わらない感覚も、これもまた一瞬のうちに崩れ去るのだった。
 周りを見渡すと、そこには希色がいた。ただ、そこにいるのではない。彼女の目からは、涙が流れていた。
「希色ちゃん!」
 慌てて駆け寄るが、反応はない。
「どうしたの!?」
 そう言って彼女の肩に手を掛けようとした時…その手は肩に乗ることはなく、そのまま空を切るようにすり抜けてしまった。
 ……!?
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 もう一度、彼女に触れようとすると。
「立花さんっ!?」
 亮介が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「亮介!」
 巧が亮介に声を掛けたが、希色と同様、反応はない。
「立花さん!!」
 亮介がもう一度希色に声を掛けているが、巧に気付く様子はなかった。
 これって…!?
 …夢?
 しかし、それにしてはリアルすぎるし、自分の意識がはっきりしている。こんな夢は見たことがない。
 再度自分の手を見つめる。そしてそれを強く握り締めてみた。問題はない。きちんとした感覚がある。
「…どうしよう、巧くんがいなくなっちゃったよ…もう、戻ってこられないかもしれない…!!どうしよう…!?」
 目の前で、希色が涙を流し、取り乱した様子で言葉を搾り出している。
 いなくなった…?俺が?
 確かにさっき、俺はあの手鏡の中に吸い込まれて…。
 と、いうことは、ここは…。
「た・く・み!」
 目の前にいる希色と亮介とは別に、部屋の入り口の方から声がした。
 反射的にそこに目を向けると、ドアの所に立っていたのは…希色だった。
「希色ちゃん!?」
 巧はびっくりして声を上げたが、目の前にいる希色を見て慌てて口を塞いだ。
「あ…」
 しかしその心配は無用だった。その突然上げられた声にも、依然、目の前の二人は無反応だった。
「巧」
 希色の声は今度は真横から聞こえた。
 見ると、ドアの所に立っていた希色は、いつの間にか巧の横に来ていた。
 巧が自分に気付いたとわかると、彼女はペロッと舌を出して見せた。
「ごめんっ!手荒なマネしちゃって。でもこうでもしないとミクタが…」
 希色は希色でも、目の前で泣いている希色とは服装が違った。ニット素材の、肩を露出し、体のラインがはっきりと出る黒い上着に、黒いジーンズを着ている。
「希色…ちゃん?」
 チラチラと横目で目の前の制服を着ている方の希色と横にいる希色とをを見比べながら、巧が事態を飲み込めないでいると、彼女は「おいおい」と頬を膨らませた。
「ちょっとー、いい加減この状況理解してよね。アタシだよ、アタシ!ロイキだよ」
 巧は一瞬怪訝そうな顔で彼女を見ていたが、やがて「あ~っ!」と声を漏らした。
 希色は普段彼女のような格好をしていないので、つい見とれていると、目の前にいた希色と亮介が連れ立って部屋を出て行ったので、それを見た巧は再び「あっ!」と声を出し二人を追いかけようとした。
「ちょっ…ちょっとちょっとストップ!」
 それをロイキが慌てて巧の服を掴み、引き止めた。
 巧は一瞬ロイキの方へ振り返ったが、なおも二人の後を追いかけようとするので、ロイキは今度は巧の腕を掴んだ。
「だーめだってば!今はそれどころじゃないの!」
「で、でも…」
「でももストライキもないのっ!どうせ二人を追いかけたって、キミは二人と接触できないし、気付いてももらえないんだよ?」
 ロイキに言われ、巧はさっき希色に触れようとしたときの感触を思い出した。
「どうして…?」
 巧が自分の手を見つめながら言うと、ロイキは「う~」と唸りだした。
「それを説明してる余裕がないんだよ~!簡単に言うと、こっちの世界に入ってきちゃったキミは、今は存在がなくなってるってこと!」
「えっ!?存在が…なくなってるって…!?」
 巧の更なる追及に、ロイキは頭を激しく振った。
「う~んごめんっ!後で詳しく説明したげるから、その話はちょっと待って。ホントにそれどころじゃないんだよ。ミックを探さなきゃ!もしかしたら危ない目に遭ってるかも…」
 その言葉に巧も頭を切り替えざるを得なくなった。
「ミックが…?」
「そうなの!何でだかわかんないけどそっちの世界の方に行けなくなって立ち往生してたら、ミックが急に『もしかして』とか言い出して、どっか行っちゃったんだよね…追いかけようとしたんだけど、ここにいたら向こうに戻れるかもしれないからって…」
「でも…俺がこっちに来ちゃってるけど…」
 巧が言うと、ロイキはうなだれてこめかみを掻いた。
「うん…ごめん、アタシも必死だったから…ほら、知ってるでしょ?本人同士じゃないと鏡を通しての行き来ができないっていうルール。でも、鏡見てて現れたのが巧の顔だったから、慌てて鏡に手を出してみたら…こんな結果になっちゃって」
「…。こっちからは戻れないのに俺のいた方からはやってこれたってわけ?…しかも鏡の相手はロイキだったのに?」
 ロイキはそう言われ、さらに肩を落とした。
「うーん、アタシにもわかんない。それがあの鏡の力ってことなのかも」
 巧も首を傾げて唸る。
「え…っと、じゃあ、その鏡は?こっちにもあるんだよね?]
 その質問にはロイキはとても困った表情を見せた。
「それが…ね、今、巧が出てくる前は確かにあったんだよ、その机のところに。でも、巧を必死で引きずり出した一瞬のうちになくなっちゃって!」
「それって…鏡が消えたってこと?」
「…わかんない。アタシもさっぱり何が何だか…」
 ロイキの反応に首を捻りつつも、巧は部屋を見渡していると、頭に一つのことが引っかかった。
「ねぇ…もしかして、希色ちゃん達が持って行ったんじゃない?」
 巧もそう言いつつ、希色達が先ほど手鏡を持っていたかどうかはよく思い出せないでいた。
「あ~!そ、そうかも…」
 ロイキが頭を抱えながら悲鳴を上げた。
「えっ、やっぱりそう…なの?」
「…のような気がしてきた」
「じゃあ、やっぱり二人を追いかけた方がよかったんじゃ…」
「…の、ような気がしてきた」
「気がしてきた、じゃないよ!!じゃあ早く追いかけなきゃ!」
 ロイキの態度にため息をつき、うなだれてしまう巧。
 昨日のイメージはテキパキしててやり手なイメージだったけど、もしかしてロッキーって結構ドジなのかも…。希色ちゃんも少しドジなところあったりするからなー。似てる所もあるのかも。
 などと思いつつ急いで部屋を飛び出ると、後ろからロイキが付いてきながら言った。
「でも、ミックはどうするのっ?」
「あーそうか…でも鏡を追いかけた方がミックを見つける近道になるかも!行き先の当てはないんでしょ?」
 巧が家の鍵を閉めながら言うと、ロイキはため息をつきながら、
「うんーわかんない…ごめんねーアタシ今日どうかしてる…。普段はアタシこういうミスしないんだよ~それだけは分かって!」
 と手を組んで見せた。
「あはは…わかったよ」
 逆に本当にそうなのか疑ってしまうような言い方だったが、今はそれよりも鏡を追いかけなければという意識が優先して、巧の足を速めた。
 後ろから、
「ねー!巧こそ鏡持って行った場所わかってんのー?」
 などとロイキが言っていたが、巧は走りながら先ほどの希色達の様子を思い浮かべていて、それが耳に入っていなかった。
 希色ちゃん…泣いてたけど、大丈夫かな…。
 てか、さっきの二人、なんかいい感じだったよな…。
 …って、何考えてんだ、俺。
 余計な考えが頭をよぎったことが恥ずかしくなって、巧は駆け足をさらに早めた。

        2

 ピンポン!ピンポン!
 ようやくマジョンナの住む部屋の前にたどり着いた亮介と希色。
 亮介が慌しくそのチャイムを鳴らす。その横では希色が少し屈み気味になり息をついている。
「はいはいそんなに押さなくても出てくるわよ」
 そう言いながら扉を開け出迎えたのはマジョンナだった。
「先生!!」
 亮介が叫ぶ。
 ……。
 マジョンナは目の前の二人の様子を見て、瞬時に大事が起きたことを察した。
「…とりあえず、中に入りなさい。話は地下で聞くわ」


「姐さん!鏡はあったんか?」
 階下でニージョが聞いてきた。
 マジョンナはそれには答えずに、後ろの二人へと振り向いてその答えを求めた。
「持って…来ました」
 亮介がハンカチで包まれた手鏡を差し出す。
 途端に希色が目頭を覆った。
「立花さん…」
 亮介も彼女を見て眉をひそめた。
「…どないしたんや?」
 ニージョも異変に気付き、彼らの表情を確かめようと背伸びをしている。
 鏡を受け取ったマジョンナは、ハンカチを外そうとしてやめながら、亮介に聞いた。
「この中に、巧が…なのね?」
 コクリ、と亮介は無言で頷いた。
 それを確かめると、マジョンナは大きくため息をついた。
「…もっと注意しておくべきだったわ。あの鏡の性質は知っていたっていうのに…」
 そのままマジョンナは頭を抱えながらしばらく黙り込んだ後、周りの視線に気付き顔を上げた。
「あ、ごめんなさい。とりあえず座ってちょうだい」
 ソファーに座るや否や、亮介はマジョンナに聞いた。
「マジョンナ先生…、タクを助ける方法はないんですか?」
 マジョンナもソファーに座りながらそれに答える。
「うーん、そうね…あると言えば、あるのよ。私なら、この鏡を使って向こうの世界に行くことができるから」
「えっ!?」
 亮介が驚きの声を上げたのと同時に、ソファーに座ってうつむいていた希色も顔を上げた。
「あなた達と違って、私には鏡の向こうにもう一人の自分なんていうのは存在しない…だから、その辺りのルールを気にしなくても、これを使えば向こうに行けるわ」
 マジョンナは一旦間を置いて、再び続けた。
「でも…気になるのよね。巧が鏡を見たのなら、ミックもこっちに戻ってこれるはず…。どうして巧があっちに行くことになってしまったのかしら…」
「う~ん、謎やな。お互いが鏡の前に立ったら移動できるっていうルールをもってしても帰ってこれへんかったんちゃうか?普通の鏡でも出来ひんかったんやし」
 ニージョが短い腕を組みながら言う。
「でも…それなら巧があっちに移動出来たのはおかしいわ。ミックが彼を引き込んだのかしら」
 マジョンナが言うと、ニージョは思い出したようにマジョンナを指差し、言った。
「…もしかしてあの鏡、一方通行になってしまったんやないか!?」
 それを聞いてマジョンナは眉間にしわを寄せる。
「…なんですって!?もしそうだとしたら、あの子達が戻ってこれなくなってしまうわ!…いったい、何が起こってるっていうの…?」
「い、いや、姐さん…ちょっと言ってみただけやで…?」
 ニージョがマジョンナの前に立って言ったが、彼女はそれを聞いているのかいないのか、
「…色々考えてても仕方ないわ。私が行くわ」
 と言って、手鏡に覆われたハンカチに手を掛けた。
「ま、待ってください!」
 希色がそのマジョンナの手を止めた。
「わ、私に…試させてください」
 希色のその言葉に、マジョンナは黙ったまま、「何を?」と言う表情で彼女を見つめた。
「え、えっと…鏡の向こうの世界には、もう一人の私もいるんですよね?…だったら、私が鏡を覗いたら、彼女が戻って来れるかも…」
 マジョンナはそれを聞いてもしばらく彼女を見つめていたが、やがて視線を落として首を振った。
「…だめよ。可能性はあるかもしれないけど、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないわ。もし失敗して、あなたも鏡の向こうから戻れなくなってもいいの?」
 希色は一瞬たじろいだが、意を決したのか立ち上がると、視線を落としたままのマジョンナに目を向けて、答えた。
「それでも…構いません!巧くんがいなくなったままなのに、何もせずにはいられませんっ!それに…まだ戻ってこられないって決まったわけではないです!きっと何か方法が…」
 希色の言うことに、マジョンナは驚いたように顔を上げたが、途中で遮った。
「わかった、わかったわ。あなたの気持ちは十分にね。でも、やっぱりだめなものはだめよ。あなたまで巻き込むわけには行かない。もしものことがあって、あなたを助けられる保障はないし、向こうに行ってあなたに何ができるというわけでもないわ。そうでしょ?」
「それは…」
 希色はまだ何か言いたそうだったが、そのまま黙ってしまった。
「立花さん…俺も、先生に任せた方がいいと思う」
 それまで横で黙って聞いていた亮介が、希色をなだめるように言った。
 希色はその一言に答えることも頷くこともなく、険しい表情のまま、ソファーにがっくりと腰を下ろした。
「希色、わかって。あなたのためなのよ。さっきも話したけど、もしかしたらあなたたちの力が必要になる時がくるかもしれない。その時は迷うことなく協力をお願いすることになると思うわ。でも今はまだその時じゃない。私自身、どういう形で協力してもらうのか、まだわからないくらいだしね。もしもの時は、この鏡を通して何らかの信号を送ることにするわ。私だって戻って来られない可能性があるし」
 マジョンナはそこまで言うと、部屋にいる全員を見渡した。手鏡を持ち、部屋の魔方陣の真ん中に立つと、手鏡のハンカチ包みを剥がした。
 希色と亮介はソファーから立ち上がり、ニージョは魔法陣の側まで駆け寄る。
「ニージョ、二人のことは頼んだわよ。特に希色には、誤ったことはさせないでね」
 マジョンナはそう言ってにっこり笑って見せると、手鏡の面に手を触れた。
「姐さん…!」
 ニージョがマジョンナの足元まで駆け寄ったが、その時にはすでに彼女は鏡の中に姿を消し、代わりに上から降って来た残された手鏡に頭をぶつけたのだった。

        * * *

 時は少し遡って。
 巧とロイキの二人は、希色たちが向かったであろうマジョンナの家を目指し、全力で駆けていた。
「…ねぇ!ちょっと、巧!聞いてる?」
「…え?あぁ、何?ごめん、聞いてなかった」
 後ろを付いてきていたロイキと話すために、スピードを若干緩めて巧は聞きなおした。
「も~!何度も聞いてるのに全く反応なしなんだから!」
 ロイキが息を弾ませながら巧を睨みつける。
「ご、ごめん!希色ちゃん達を追いかけるのに夢中で…」
 巧はそうは言ったものの、実際は先ほどの取り乱した様子の希色と、彼女を慰めていた亮介の二人の図を思い出しながら、心配すると同時に妙なドキドキ感に悩まされていたのだったが。
 そんなことなど露ほども察していないロイキは再度巧に問うた。
「んもぅ、気をつけてよね!…で、希色達の行き先には心当たりあるの?」
「あぁ、それなら大丈夫!恐らく、っていうか間違いなくマジョンナさんの所だよ!最初からその予定だったから」
 きっと、予想外の展開に、二人はマジョンナに助けを求めに行ったに違いない。
 ただ、もし自分も一緒に鏡を届けに行ったとしても、それを使って結局はこちらの世界に来ることになったのだろうか、と巧は思うのだった。
「りょーかい!…ところでさぁ、ちょっと休憩しない?このままのスピードじゃバテちゃうよ。まぁ、いつもはこれくらい全然平気なんだけどさ、なんか調子悪いんだよね」
 ロイキが不満を垂れたが、巧は前を見つめたまま、
「ダメだよ!一刻を争うんだから。…たぶん」
 と首を捻りつつ頷いた。
「まぁねー、このまま戻れないんじゃかなりヤバいことになるよね。アタシも時間が経つほど厄介なことになりそうな気がする。調子悪いのも戻れなくなってからだしなー。何か関係あるのかも」
 巧は今度はロイキの言うことには何も答えず、このまま戻れない場合どうなってしまうのかを頭の中で想像した。
 さっきロッキーが言ってた通りだとすると、自分の存在自体がなくなってしまうんだよな…。そのまま行方不明扱いになって、マスコミに大騒ぎされるかもしれない。
 みんな必死に自分を探すのだろうか。
 そうだ…母さんは…戻ってきた時にそのことを知ったら…。父さんの次に俺まで失ってしまったら…。
 独りぼっちになってしまった母を想像すると急に気持ちが焦りだし、無意識に駆け足をさらに速めた。
 そのまましばらく二人の間では会話はなく、二人は一心に走り続けた。
 もうしばらくでマジョンナの家に辿り着くという時、後ろにぴったり付いてきていたロイキが声を上げた。
「巧っ!ストップストップ!!」
 そのまま肩を掴まれ、巧は駆け足を止めた。
「えっ!?なんだよっ!」
 もうすぐ到着といった時の突然の停止に、巧は無意識に半分怒った口調でロイキを振り返った。
「…はぁ、はぁ。…怖っ、そんな顔で睨まないでよ」
 ロイキの反応を見て、巧は慌てて「あぁ…ごめん」と顔を拭った。
「うん…まぁ、いいんだけど。それより見て!」
 ロイキの指差した先には公園が、そしてそこにはミクタと思われる自分と同じ姿の者と、黒い服に身を包んだ見たこともない長身の男が向かい合っていた。

「ミック!!」
 それぞれに名を呼び、巧とロイキは公園へ駆けつけた。
 駆けつけた二人にミクタは気づいたようだったが、彼らに体を向けることはせず、目の前の相手を見つめたまま二人に待ったの手を出した。
「気をつけろ!こいつはやばいかもしれない…」
 ミクタの発言に、巧達はほぼ同時に彼の視線の先の相手へと首を向けた。
 ソバージュのような髪型に真っ白な肌、垂れがちな目に紫がかった唇の端にピアスといった顔立ちのその男。
 そんな風貌に黒尽くめの服装が合わさると、何とも異様なオーラを醸し出していた。
「俺は、やばくない」
 黒尽くめの男は突然口を開いた。
 巧は思わずビクッとしたが、気を持ち直して男を見据えた。隣ではロイキが目を見開いている。
「見た目はどう見てもやばそうにしか見えないけどね」
 ミクタが男を睨みつけながらフッと笑った。
「俺、何も危害は加えない」
 男はそう言ってミクタに近づこうとしたが、彼はそれを許さない。
「そうは言われてもね…この辺では見ない顔だし、自分で見たことある?自分の出で立ち。怪しいことこの上ないんだけど」
 ミクタの強い疑いに、男は眉間にしわを寄せ、困った顔になった。
「じゃあ、どうすればいい」
「率直に聞くけど、あんた、何者?鏡の世界のバランスがおかしくなってきてることに関係あるんじゃない?」
 ミクタが聞くと、男は「俺、違う」と首を振った。
「俺、マジョンナに、会いに来た」
「…マジョンナに?」
 三人は顔を見合わせる。
「そうだ。大変だから、マジョンナが心配になってきた。マジョンナはどこだ?この辺だと思うのに見つからない」
 黒尽くめの男はそう言うと、公園の周りを見渡し始めた。
「マジョンナを知ってるって事は…」
 巧がロイキに向かって言うと、彼女は頷いた。
「普通の人じゃないのは確かだけど。う~ん、ややこしい事になりそう…」
 そんな二人をよそに、ミクタは相変わらず男から視線を逸らさなかった。
「信用できないね。状況が状況だし。マジョンナに会わせたら、何をしでかすかわからないし」
「そんな…」
 男はその大きな体と風貌に似合わず、今にも泣き出しそうな顔になった。
 が、その顔はすぐにパッと明るさを増した。
「その心配は無用よ、ミック」
 巧達の後方から女性の声がした。
 三人が一斉に振り向くと、そこには話題の主であるマジョンナが、笑顔で立っていた。

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